1 『妖怪』と呼ばれる存在が『人間』にとって酷く疎ましい存在であったことは今更語ることではない。 『妖怪』は人を襲い、殺し、喰らう。それは今に始まったことではなく、その起源すら今では誰も知らない。 それほどに、『妖怪』と『人間』が共に生きた歴史は長い。 故に、世界はもう一つの異端を生み出した。 共に生きてきた『妖怪』と『人間』の狭間を。 『妖怪』と『人間』が混ざり合って出来た存在を。 それらは『妖怪』でもあり、『人間』でもあり、それ故に『妖怪』でも『人間』でもない。 そんな存在を彼らはこう呼んだ。 『咎』と。 それは『妖怪』に少しでもかかわりを持った『人間』を指す言葉であったし、『妖怪』と『人間』の間に生まれた子供を指す言葉であった。 その存在はあまりにも異質であり、『人間』からは忌まわしき存在だとして疎まれ、『妖怪』からは不可解な存在として蔑まれた。 偏見。差別。憎悪。殺意。 それらの悪意にさらされた『咎』の心情は計り知れぬ。だが想像するのは容易であろう。 この世はなんと、理不尽なものか。 この世はなんと、生き難いものか。 中にはこの世に絶望し、自ら命を絶った『咎』も数知れず。 また、その姿を保つことすら叶わず、『妖怪』へと変貌したものもいた。 しかし――・・・例外として、『咎』としてあり続けようとする者もいた。 自身に誇りを持って生き続けようと抗う者がいた。 背中に『咎』の字を背負う、たった一人の少年。 『妖怪』と『人間』の狭間で仲介をするもの。 人は彼を『退治屋』と呼び、妖怪は彼を『咎人』と呼んだ。 「さあ、はじめようか」 これは一人の『咎人』に纏わる、ただ一つの物語である。