02 下校時間となれば近所の小学生がわらわらと走り回ってるものだが、さすがに登校時間となれば、人っ子一人いなかった。 犬の散歩がてらよく立ち寄っている人も時々見ることがあるが、今日に限って誰もいない。 ますます不安になるのだが、それを気にした様子もなく、はとこはずんずんと公園の奥へ進んでいく。 「それで、どこら辺が君のいう嫌な感じなんだ?」 俺の言った曖昧な表現を繰り返しながら振り向く彼女に、俺は内心苦笑しながら答える。 「えーと、よくは分からないんだけど・・・」 俺の言うことを、こうにも無条件で信用しているあたりが、彼女の人の良さなのだろう。 「私には全く分からないな。いつのまに超能力を身につけたんだ、創夜。」 「そんなものを身につけた覚えはない。」 「それで、どのあたりだ?」 やはり俺のツッコミは無視だった。 「・・・・。あそこの木のあたりだと思う。」 俺はなんとなく、傍に生えている木を指差す。 それは何の変哲もないものだった。 細くもなく、太くもなく、背が高いわけでも、低いわけでもない。 植物に詳しくない俺にしては、この木の種類すらわからない。 それでも、俺はその木が気になって仕方がないのだ。 「よし、行こう」 「・・・・。」 俺はもう異論を唱えなかった。また同じ論議を交わす必要はない。 *** 近くまで来て見た木は、見れば見るほど何の変哲もないものだった。 「・・・特に可笑しなところがない木だな。」 はとこもそう思ったらしく、首をひねりながら、しげしげと木を見上げる。 俺もその木をじっと見るが、本当に何の異常も見当たらない。 俺は視点を変えて、木の下に何かないか探してみることにした。 すると意外にも、『異物』は堂々と俺たちの目の前に鎮座していたのだ。 それは、ぽっかりと開いた『穴』だった。 木の根元から縦に裂けたような細長い穴。木の内側をむき出しにして、光が届かないためかその中は薄暗い。 その穴の中に、不自然に膨らんでいる白いスーパーの袋が突っ込まれていた。 口はしっかりと持ち手で縛られており、中に何が入っているのかは分からない。 ただ、大きさはボーリングのボールくらいだろうか。 そしてそのスーパーの袋にまるで吸い寄せられるように、たくさんの蝿が群れて、集っている。 「・・・む、これか」 はとこは俺の目がその袋に注がれているのに気づいて、一瞬穴の中に手を伸ばしかけた。 だがさすがに蝿がたかっている袋は触りたくないのだろう、形の良い眉を寄せて、手を止める。 「・・・・迂闊に触らない方がいいかもしれんな。」 「というか、触りたくないだろ、普通に。」 蝿がたかっているということは、生ゴミだろうか。 けれど、おそらく俺の言う『嫌な予感』はそこからするのだ。 正直、嫌な予感がするのだから、それを放っておくというのも方法の一つだ。 だが、やはり、焦燥感が俺を駆り立てた。 袋を触れずに開けるには、どうすればいいだろうか。 俺とはとこは何かないかと地面を見下ろす。 「ん?」 はとこが俺より先に何か見つけたらしく、地面に手を伸ばし、何かをつまみ上げた。 ――・・・それは細長い木の棒だった。長さは20cmほどだろうか。 「おや、こんなところにちょうどいい長さの木の棒が」 「・・・・それで袋の口を開くのか?」 「勿論だ。」 はとこはうまい具合に、袋の結び目に木の棒を突っ込み、上に引いた。 木の棒がしなって、固く閉じられた結び目が緩んでいく。 蝿が大騒ぎして、俺たちの周りを飛び交った。鬱陶しくて、俺は手でそれを払いのける。 耳元で不快な羽音がした。 「あ、取れた。」 結び目はあっけなく解け、閉じられていた袋がぽっかりと口を開く。 俺たちは反射的にそれを覗き込んで――・・・ まず、最初に映ったのは黒色だった。 次に、ぶよぶよした、青白い何か。そして、袋の内側にこびりついた、鉄くさい赤色の何か。 思考が停止した。 これは、何だ? 俺は思わずそれを見たまま、動けなくなる。 眩暈がした。吐き気がした。 蝿の羽音がうるさい。 俺を嘲笑うように飛び交うそれを、もう振り払う余裕すらなかった。 ようやく、俺は「それ」が何なのかを、理解した。 「・・・・首だ」 どろりと濁った眼球が、袋の中から恨めしそうに俺たちを見上げていた。
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